空色の地図 ~ロンドン編~8 フィッシュアンドチップス 久路

 ロンドンを訪れると、必ずと言って良いほど食べるフィッシュアンドチップス。なぜならロンドンでは数少ない「はずさない」メニューだからだ。初めてロンドンに行く人には、困ったらフィッシュアンドチップスをオーダーするように勧めている。白身魚のフライにポテト。衣の種類によっては多少の好き嫌いがあるかもしれないが、おおむねどこで食べても美味しい。ただひとつ気をつけるとすれば、忘れずにディップ用のソースを貰うこと。たいていの店では全く味付けをしないで提供するので(塩こしょうすらしていない!)、カウンターやテーブルにある塩とビネガーを振りかけて食べることになるのだが、正直途中で飽きてしまう。皿からはみ出すほどのフライは、大人が両手を広げても、まだ足りないくらいに大きい。塩とビネガー、レモンで乗り切るには、少々難しい大きさだ。最初から添えてくれる店もあるが、たいていは注文しないとソースをもらえない。ここはディップで味の変化をつけて楽しみたいところだ。
 日本で最も有名なイギリス人シェフ、ジェイミーオリバーお勧めだというフィッシュアンドチップスの店は、注文の都度揚げるフライが美味しいと評判だ。小さいサイズを選んだが、それでも皿から熱々のフライがはみ出している。天気が良いので外のテーブルで食べることにした私は、勿論タルタルソースとケチャップのディップを貰うことも忘れない。塩とビネガーを振ってひとくちの大きさに切り分ける。サク、と小気味よい音にいやが上にも期待がつのった。フォークの上でほろほろと崩れる白身を慌ててほおばると、香ばしさが口いっぱいにひろがる。日本だとあまり食べない白身魚のフライが、ロンドンにくるとどうしてこうも美味しく感じられるのだろうか。
 付け合わせのポテトも平らげて満たされた後は、近くのポートベローマーケットまで散策だ。ヨーロッパ最大級の骨董市と言われるだけあって、ゆるやかな坂道沿いにずらりとストールが並んでいる。アンティークの懐中時計や服にはじまり、花や野菜を売っている屋台もある。観光客だけでなく、地元の人も多く訪れているようだ。歩き疲れたころに、ちょうどオープンカフェが目についたのでそこで紅茶をオーダーした。大きな木の下のテーブルがみるからに涼しげで、やはりここでもテラス席で休ませて貰うことにする。
 日本にもチェーン店があるそのコーヒーショップは、見ると殆どの人がコーヒーを飲んでいる。なるほど、イギリス人は家で紅茶を、外ではコーヒーを飲むと聞いたが本当なのだな、と納得する風景だ。ほどなくして大小の紙コップがふたつと、ティーバッグが載ったトレイが手渡された。見ると大きいコップにはお湯、小さいコップにはミルクがなみなみと注がれている。さすがはロンドン。木漏れ日の踊るテーブルでいただく紅茶は、とびきり美味しい一杯だった。

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