空色の地図 ~台湾編~7 台湾の建物 久路

 中山駅を出て大通りを歩く。ひとつめの大きな交差点を曲がり中山北路を行くと、ガジュマルの木に囲まれた白い洋館が見えてくる。その名も「台北之家」という。
 もとは米国領事館だったという建物が、今は映画をテーマとしたサロンやカフェとなり、日中であれば誰でも入ることができる。台北で私の好きな場所のひとつだ。交通量の多い通りに面していながら、そこだけ別の時間が流れているような気分になれるからだ。気候の良い時期などは、テラス席でお茶を飲むのもいいだろう。
 初めて台湾を訪れる時、知人が私に告げたのは「台湾の道路はつまづきやすいから気をつけて」だった。アスファルトで舗装されてはいるけれど、あちこちに窪みや段差があるし、歩道であっても平気でスクーターが乗り上げてくる。油断しているとつま先を引っかけたり急に現れた段差に足を踏み外したりしかねない。くれぐれも歩きやすい靴で、というのが知人の忠告だった。
 なるほど、台湾を少し歩いてみればそのとおりだ。だがここ数年ほど台北市内では舗装のやり直しや道路工事が進み、以前に比べればだいぶん歩きやすくはなった。自転車用のレーンが設けられた場所などもある。道路と同じで、建物も建築ラッシュだ。およそ10年前に完成した台北101の付近はきれいに整備され、新しい百貨店やホテルが建ちならんでいる。
 それでも心惹かれるのは、歴史を重ねてきた建物が多く残る地域だ。中でも19世紀から20世紀初頭の台湾の姿を色濃く残す迪化街は、興味深く何度訪れても飽きることがない。
 中国福建省の伝統的な建築様式を踏襲したものや、バロック式の装飾が多く豪奢な建物などが、今も現役で店舗として活躍している。その美しい石造りのモチーフを見上げていると、「台湾産のドライマンゴーだよ。おひとつどう?」と声がして、試食用のマンゴーを差し出された。ひとつつまんで口に放り込むと、濃厚な甘さと香りが口に広がる。乾物屋や漢方薬局が多い地域なので、ドライフルーツを物色しながら散策するのもまた楽しい。
 迪化街に限らず、台湾では軒先にアーケードが設置されていることが多く、雨の日であっても濡れずに買い物ができるし、また夏の暑い日でも、強い陽射しを避けながら歩くことができる。歴史と活気ある街並みを存分に楽しんだ私は、土産に買ったドライフルーツの包みを鞄へと仕舞おうとした。「危ない!」だがその時、道の段差に足をとられ、よろけてしまった。
 アーケードを支える柱に手をついて間一髪、転ぶのを免れた私の脳裏に知人の言葉がよみがえる。そうそう、こういう場所ほど段差が多いのだった。皆様も、台湾に行かれるときはどうぞ足下にはじゅうぶんにお気を付けて。

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