足下でランプが青く光る。その明滅するイルミネーションさながらの美しい光に誘われるように、列車が到着した。ホームに滑り込んできた車体の電光掲示板には漢字と英語で行き先が表示され、開いたドアから吐き出された人たちは、一斉に出口へ向かった。
ガラス扉で仕切られた列車とホームも、東京の地下鉄によく似ている。既視感に襲われた私の背を、発車のメロディが押しこんだ。
実を言うと、今回の旅の始まりはちょっとツイていない。さっき買い物にでかけた時、段差に躓いてひどく足首を捻ってしまったのだ。
今日は日曜日、病院もあいていない。バスルームでひとまず患部を冷やし、さらに氷でアイシングを。粗忽な性格ゆえか、しょっちゅう捻挫にみまわれていたため、処置なら慣れている。だが捻り方が拙かったのだろう。冷やしている間にも、みるみるうちに足首は腫れ上がった。
買ってきて貰った湿布と包帯で、患部をぐるぐる巻きにする。動かないように固定して、おそるおそる靴を履いてみる。うん、少しくらいなら歩けそうだ。
そういうわけで、私は足を引きずりながら地下鉄に乗り込んだ。
真新しい車体の中、プラスチックのシートは地元の人と観光客で埋まっていた。ほどほどに混雑した地下鉄の中は、通い慣れた通勤列車を思い起こさせる。
空いていたつり革につかまると、目の前に腰掛けていた青年がおもむろに席を立った。どうぞ、と目顔で示されて、実のところ私は狼狽えた。なぜ席を譲られたのか、分からなかったのだ。
そしてはたと思い当たる。彼は、包帯が巻かれた私の足首に気づいたのだ。もしかすると、足を引きずっている様子を見ていたのかもしれない。
「謝謝、」
感謝の言葉をもごもごと口にして、譲ってもらったブルーのシートに座る。青年は少し離れたつり革につかまって、本を読んでいた。
この日はあと2回地下鉄に乗ったのだが、必ず誰かが席を譲ってくれた。おかげで、私は痛む足で踏ん張らなくとも済んだ。
私はこれまで台北の地下鉄には数え切れないくらい乗ったし、これからも乗るだろう。そしてその度に、ほのあたたかい気持ちになれるのだ。