空色の地図 ~ロンドン編~3 スーパーマーケット 久路

 見慣れないパッケージが一面に飾られた棚の前で、立ったりしゃがんだりを繰り返してもう半刻になるだろうか。焦れた家族が「決まった?」と話しかけてもなお、私はぐずぐずといくつかの箱を手にとっては棚に戻すという動作を繰り返していた。
 ロンドンのスーパーに立ち寄った時、最初に向かうのが、紅茶を売っている一角だ。アッサムにキーマン、ダージリンにもちろんイングリッシュブレックファースト。紅茶のコクがストレートに味わえるうえに、ミルクとの相性がいいイングリッシュブレックファーストが気に入りではあるが、ダージリンの持ついかにも紅茶らしい香りも好きだし、ウバのさわやかな渋みも捨てがたい。
 とはいえ、銘柄や淹れ方にこだわるほど紅茶に詳しくもない私は、ティーバッグで手軽に飲める事が最優先だ。棚にならぶ半分以上がティーバッグの紅茶だということは、ロンドナーの中にも、茶葉から淹れるのは面倒だと考える人が多いのだろう。
 これ以上家族を待たせるのも気が引ける。意を決して棚に手を伸ばし、ワイヤー製のカゴにいくつかを放り込む。6つ入れてから少し考えて、もう4つ追加した。大きな箱は自分が飲むためのもの。2種類買っておけば安心だろう。残りは友人やお世話になっている方への土産に。スーパーのプライベートブランドの紅茶だが、いかにもといったロンドン土産よりも喜ばれる事が多い。勿論味は折り紙付きだ。
 すでに一杯になったカゴを手に、次に向かうのが飲み物のコーナーだ。日本でも目にするよく知ったブランドを避け、あえて得体の知れないラベルのついたものを選ぶ。ホテルへ持ち帰り、飲む瞬間のドキドキがたまらない。美味しければラッキーだし、もしそうでなくても、いい土産話になるからだ。総じて果物系の飲料は美味しいものが多いけれど、ヘルシーさを謳ったものは、飲みきるのが難しいような味のものに時折出会う。冷やされたボトルを数本カゴへ。持ち手が腕に食い込む。だいぶん重たくなったけど、まだまだ買い物はこれからだ。
 日本では見たことの無いようなカラフルなグミに、私の大好きなチョコレートも、沢山の種類が置いてある。使ったことのない調味料がずらりと並ぶ棚の前では、ひとつひとつ手にとって眺めてしまうし、重たくて沢山は買えないけれど、ジャムも美味しそうなものばかりだ。
 ロンドンのスーパーは、私にとっておもちゃ箱のようで、隅から隅まで見て回っている間にすっかりと辺りは暗くなっていた。荷物は少し重たいけれど、しばしホテルまでの散歩を楽しもう。買い物袋を抱えた私を、真っ黒なオースチンのヘッドライトが追い越していった。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA