ドラゴンフルーツにライチ、パイナップルやスイカ。台湾のスーパーは南国フルーツの宝庫だ。とりわけマンゴーに目がない私は、夏場に訪れる台湾でフルーツを買い込むのがお決まりだ。
日本では高価なマンゴーも、ここ台湾ではびっくりするほど安価で手に入れられる。スーパーに入ってカゴを手にすると、私は一目散に果物売り場へ向かった。
台湾愛文芒果(アップルマンゴー) が盛られた篭の値札には「79元(日本円で300円程度)」と書かれている。ひとつではない。ふたつでこの値段だ。安い。日本での価格を考えると、信じられないくらいに安い。オレンジ色の皮がほのかに赤く色づいて、表面は粉を吹いたように白いが、これは「ブルーム」と言って甘い証拠だ。
マンゴーの濃厚な香りがただよう中、私は品定めを始めた。
地元の人などはおそらくまだ熟れ切っていないものを買いおいて、熟してから食べるのだろうが、私はこれからホテルに持ち帰りすぐに食べるつもりだ。
「美味しいマンゴーをおなかいっぱい食べる」という夢が、ここ台湾においては比較的容易に実現する。
完熟のものを探すべく、ひとつひとつを取り上げては裏返し、マンゴーの「おしり」を確認する。蜜がしみ出していて、持つと少し手がべたべたするくらいがちょうど食べ頃だ。
甘い香りが強く、指がべたつきずしりと重みを伝えてくるマンゴーを選んで、カゴに入れる。
本当なら5つくらい買って食べたい所だが、ここ台湾で美味しいのは、マンゴーだけではない。今晩の食事の為にも胃袋のスペースを空けておかなくては。なに、また明日も買いに来ればいいだけだ。ゆるむ頬を引き締めて、私は次の棚へ足を向けた。
インスタント麺の並ぶ棚はカラフルだった。オレンジに緑、赤。キッチュなデザインのキャラクタが描かれたパッケージを手に取り、私は表面の漢字に目を走らせる。言葉は分からずとも、字を見ればなんの味かおよその見当がつく。牛肉麺や排骨味。日本では見たことのない字面に心が躍る。
家に帰って作った時、独特の香辛料が台所にたちこめるのだろう。その香りに包まれて台湾を思う瞬間を、私は「おまけの旅」と勝手に呼んでいる。
どんな旅でも、終わりに近づくにつれ、物寂しいようなじりじりとした思いにとらわれるのは、きっと誰も同じだ。帰国の前日、スーツケースに荷物を詰めながら、再び訪れる「日常」の影に少しだけため息をつく。でもそんな時には「おまけの旅」があるさ、と自分に言い聞かせるのだ。「おまけの旅」の中で私は、このスーパーの棚で逡巡した事を思い出すだろう。マンゴーの品定めをしたこともまた、鮮やかによみがえる。そうしてまた次の旅行の計画をたてればいい。
次の旅のまたその次も。きっと私はこうしてスーパーの棚の前にいるのだろう。