空色の地図 ~台湾編~4 公園 久路

 容赦なく照りつける太陽の下、建物の影を踏んで歩く。首筋を伝う汗も一向に涼を運んではくれない。じっとりと肌にまとわりつく空気の重さすら感じる台湾の夏は、暑さが苦手な私にとって厳しい季節だ。
 向かいの屋台で買ったレモンジュースを頬に押し当てる。受け取ったばかりのプラスチックカップに、びっしりとまとわりついた結露が顔を濡らした。スライスしたスターフルーツが目にも涼しい一杯を啜ると、ようやく息が出来るような気がする。
 永康街、と呼ばれる観光地に位置するこの公園は、こぢんまりとした三角形をしている。台湾の公園にしてはめずらしく、すべり台などの遊具があり、子供たちが走り回っていた。彼らにとってこの暑さは日常なのだ。一方私は日差しを遮る木陰を探して身を潜めるようにしながら、カップの中身を吸い上げる。てのひら以外の全部が暑い。
 永康街を歩く観光客は、殆どが公園の横を通り過ぎるだけで、設えられたベンチに腰掛ける人は少ない。付箋の貼られたガイドブックを手にめあての店へ向かう人の流れを眺めながら、カップの底に残ったジュースを飲み干した。
 台北には大小とりまぜて公園がいくつもある。とりわけ私が良く通るのが林森公園だ。台北の中心部、中山駅から東へ歩いて5分ほどすると左手に大きなガジュマルの木が見えてくる。台湾の公園でよく目にする『気根』と呼ばれる根を枝から地上へと長く伸ばし、太い幹にぎっしりと葉を茂らせたその姿は、私の知る観賞用のガジュマルからはかけはなれている。気根は土にもぐり、やがてその表面を幹と同じような樹皮が覆う。まるで無数の幹が絡まりあい、天へと手を伸ばしてくかのようだ。
 私が林森公園を訪れるのは、たいていが朝早くか夕暮れ時だ。朝は設置されたレンタルサイクルを借りるため、夕暮れ時は散歩にくる犬を眺めるのが楽しい。
 今朝は少し離れた早餐店(朝ご飯専門店)へ行くために、林森公園の入り口にあるレンタルサイクルステーションを訪れた。黄色い自転車を引き出しながらふと見ると、ガジュマルの下、木のベンチに年配の男性がふたり腰掛けている。友人同士なのだろうか、まだ朝の7時前だというのに、すっきりとした表情でなにやら楽しげに見えた。声高に交わされる中国語を聞き取るだけの力はまだ私にはなくて、次いでおきた笑い声を背に自転車にまたがる。
 気根を長く垂らしたガジュマルを横目にペダルを踏み込む。生い茂る葉の下に濃い影を落とすこの木は、うだるような台湾の夏を謳歌しているように思えた。

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