空色の地図 ~台湾編~6 タクシー 久路

 台北市に向かう高速道路は混雑していた。
 関空を飛び立ち到着した桃園空港は、台北から車で1時間ほどの距離にあった。市内へ向かう方法としてはリムジンバスとタクシーが一般的だ。生憎と私の泊まるホテルは、リムジンバスの停車駅から少し離れているため、タクシーを選ぶ事が多い。今回も私は大きめのボストンバッグを抱えながら、タクシーへ乗り込んだ。
 黄色い車体は混雑した高速道路を飛ぶように走っていた。
 台北へ向かうこの道路は、渋滞の一歩手前くらいの混雑具合で、連なった車列がずっと先まで続いている。その間をすり抜けるようにして、タクシーは走る。まるで映画で見るカーチェイスのような有様に、私は息をつめてシートベルトを握りしめた。だがそういう走り方をしているのはこの車だけではない。一般車もトラックも、バスですらひっきりなしに車線変更をしながら、我先に前の車を追い抜こうとする。ホテルまでの小一時間、車の中で仮眠でも、なんてのはよほどの心臓でなければ難しい。
 なので無事にホテルに到着した時は、心底ほっとした。メーターの示す料金を支払い、力が入りすぎて強張った肩を回す。いつもの事だが、台湾でタクシーに乗るというのはちょっとばかりのスリルを伴う体験だ。
 ただ運転の荒いタクシーばかりではない。
 その日は冬の台湾にしては珍しく、きれいに晴れ渡った空が広がっていた。朝から大好きな小籠包を食べに行こうと、ホテルの前からタクシーに乗る。台湾のタクシーは日本にくらべるとかなり料金が安いので、短い滞在の時や夏場は頻繁に利用することにしていた。
 乗り込んだタクシーの運転手は女性だった。珍しく英語が話せるようで、行き先を告げるとしばらく会話が弾んだ。
 ほどなくして目的地に到着する。予想より安いメーターの料金に、私は小銭を持っていないことを彼女に告げた。
「大きいお札しかないんですが、おつりはありますか?」
「朝だから生憎とお札が無いのよ」
とすまなそうに眉尻を下げる。連れを車で待たせて、近くのコンビニで崩して来ます、と提案した私に、彼女は「小銭は全然ないの?」と言った。財布の中から小銭を全て取り出し数えてみると、六〇元と少し。メーターは七四元だから、少しだけ足りない。
「じゃあそれでいいわよ」
 まけておくわ、と微笑む彼女は「だって今日はこんなにいいお天気だもの!」と空を指す。
「台湾を楽しんでいってね」
 言い置いて颯爽と走り去るタクシーの黄色い車体に、きらりと陽の光が反射した。

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