空色の地図 ~台湾編~9 誠品書店 久路

 仕事でよく台湾へ行くという知人に話を聞かせて貰った。私が初めて台湾に行くと言うと、美味しい食べ物、マッサージの店、交通事情などを様々に話してくれたあと、最後に付け加えた。「台湾は南国だから、雨の日が続くこともある。そんな時はここへ行くといい。たっぷり半日は飽きないから」それが「誠品書店」だ。
 誠品書店は、その名の通り「本屋さん」だ。台北市内に数店舗あり、昨年もCNNの選ぶ「世界で最もクールな書店」にランクインした。そう、本好きには外せない場所なのだ。
 ただの書店と思う無かれ。誠品書店はビル全体が「誠品書店」なのだ。児童書や専門書、一般書籍から世界中の本にいたるまで、様々な種類の本が並んでいる。(一店舗に、およそ数十万種類、数でいうと一千万冊以上の本が売っているという。) 勿論日本の書籍もその一角を占めており、今日本でベストセラーとなっている本がそのまま並んでいたりもする。
 ここまで説明すると、在庫や種類の豊富な大型書店といった印象だが、勿論誠品書店はそれだけにとどまらない。地下にはスイーツやパンの店が、上の階にはカフェや有名レストランも入る、まるでデパートのような書店なのだ。入っているショップは台湾の若手デザイナーの店が多く、モダンで可愛らしい雑貨や家具は、眺めているだけでも小一時間ほど経ってしまう。確かにこれだと半日なんてあっという間だろう。勿論台湾らしいデザインの文房具なども豊富に揃っているので、お土産を選ぶのには最適だ。
 そして驚くことに、フロアによっては[tcy]24[/tcy]時間営業をしているのだ。夜中でも「あの本が読みたい!」となればいつでも買いに行ける。なんてうらやましい台北の人たち。
 前回訪れたのは、誠品書店のなかでも一番あたらしい「誠品生活松菸店」だ。目当ては地下のパン屋さん。世界一のパン職人を決める大会「マスター・ド・ラ・ブランジュリー」で、2010年にパン部門で優勝したお店があると聞いたからだ。
「誠品生活松菸店」は、優雅な曲線を描く外観がとても印象的だ。真新しい建物の入り口をくぐり、エスカレーターで地下へと向かう。ひとだかりと行列で、すぐにパン屋は見つかった。少しだけならび、小麦の香り漂う店内で台湾ならではの葱入りパンとメロンパンをいくつかトレーにのせる。会計を済ませると、いざ建物の外へ。地上へ続くおおきな階段に座り、買ったばかりのパンを囓る人たちに混じって私も包みをあけた。やはり焼きたてはその場で食べなくては。まだあたたかいパンへかぶりつくと、葱の香ばしいにおいが口いっぱいにひろがった。
 小腹を満たしたあとは、ガイドブックのエリアへと向かった。現地の方むけの、日本のガイドブックを探すのだ。東京でも大阪でも、京都の本でも構わない。よさそうなものを選ぶと、私はレジへむかった。異なる国の人が、日本をどう見ているのか、どこへ行くと楽しいと思っているのか。言葉が全部は分からずとも、ピックアップされた観光地やお店を眺めていると、よく知る場所のはずが、見知らぬ土地のように見えてくる。まるで、見え方の違う眼鏡で「日本」をのぞき見ている気分だ。
 本だけに限らず、美しいもの、面白いもの、美味しいもの。さまざまな「台湾」を見ることができる誠品書店は、今まで知らなかった「日本」の姿もまた、見せてくれる気がする。

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